出口のない海
昨秋、公開された映画『出口のない海』のDVDを借りて観ました。太平洋戦争末期、日本軍の人間魚雷“回天”を描いた映画で、公開当時は特攻精神を美化する映画だって勝手に感じてですね、観ないまま1年近く経ったんですよねえ~。今度の日曜、8月19日21時からテレビ朝日系で放映するんで、ぜひ、みなさんにも観てほしいなあ~。ご覧になる方は、ネタバレアリなのでご注意くださいませ。
神風特攻隊に比べると、回天の知名度は低いですよね。
俺も名前は知ってたんですが、回天のことを強く意識したのは、
今年の7月7日、七夕の夜の、よしだよしこさんのライブでした。
詩人の石川逸子さんが書き下ろした歌も歌ったんですが、
石川さんはよしこさんに他に何篇もの詞を書いたそうです。
その中には、回天のことを書いた詞があったそうです。
石川さんは山口県にある回天の記念館を訪れ、
実際に回天の中に入ったそうです。
赤ん坊が胎内にいるような、かがまなければいられない、
そんな狭苦しい操縦席だったといいます。
よしこさんは「ちようど回天の映画が公開になりましたね」
と話してたんで『出口のない海』を思い出したんです。
『出口のない海』は、監督が佐々部清、脚本が山田洋二。
先日観た『夕凪の街 桜の国』も、佐々部監督作品でした。
すごく丁寧に撮られた、いい映画だと思います。
ただ、俺が引っかかったのが一箇所だけあったんです。
そこから、先に書きますね。
回天の故障で、九死に一生を得てしまった並木(市川海老蔵)が
整備士の伊藤(塩谷瞬)とキャッチボールをするシーン。
そこで並木は「なんのために回天で死ぬのか」を語るんです。
語られてる言葉は、本当…その通りだと思うんです。
でも、言葉にしなくても、あの映画の物語の中で、
並木の思いって、十分、観客には伝わると思うんだよね。
あそこだけ“つくられたシーン”って感じがしたんだよなあ…
俺が気になったのはそこだけで、後は素晴らしかったですよ。
海軍学校の生徒の並木達は回天搭乗を志願するんだけど、
あの時代の空気の中で苦悩して決断するのが伝わりましたね。
決断した後も、ずっとずっと苦悩してるんだよね。
それが、めちゃめちゃリアルに感じました。
この映画の中ではヒールな役回りの北中尉(伊勢谷友介)。
“軍神”になるために彼は回天を志願したんですが、
貧しい農家の出身の彼にとっては、家族が生きるために、
この道を選ぶしかなかった…そう追い込んだんだろうな…
先日聞いた北上の農民兵士の話しと重なりましたね。
俺がこの映画に入り込んだのは、回天を操縦できるようになる
過程の描き方が、すごく丁寧だったことですね。
今と違ってボタンひとつじゃないんですものね。
俺も並木同様文系の人間なんで、もし回天に載ることになったら、
まず、操縦訓練で脱落しちゃいますね。
あの過程の描き方が、これまでの戦争映画とは違って感じました。
そして一番の肝は、並木の最期です。
特攻の映画だと、主人公が敵にぶつかって玉砕するって、
普通、誰だって思うじゃないですか?でも、違ったんですよ。
並木は回天の故障で出撃せず、潜水艦は基地に帰ります。
そこで次の出撃に向けて訓練を行うんだけど、
並木はこの訓練の途中で亡くなってしまうんです。
糸井重里と吉本隆明の対談集『悪人正機』を思い出しました。
吉本さんは「戦争なんてドラマのようなんかじゃない。
大半は、飢え死にしたり、病気になって死ぬんだよ」
みたいなことを話してたんですけど、並木もそうでした。
特攻の映画で、特攻で死ねず、訓練の途中で死ぬんですから。
この場合、並木って戦死になるのかな…
特攻で死ねば何階級か特進になるんだろうけど…
太平洋戦争の日本の犠牲者は330万人、
非戦闘員の死者は110万人と言われているそうです。
戦闘員って言っても、赤紙で召集された学徒動員や農民兵士も
含んでるんですからね…
終戦までに訓練を受けた回天搭乗員は1,375人、
回天による戦没者は106人、整備士を含め145人だったそうです。
彼らや、並木のような事故で亡くなった人達、
そして複雑な思いを抱えたであろう生存者の方々の思い…
さまざまな思いを感じさせてくれる映画でした。
そうそう、この映画の主題歌は竹内まりやの「返信」で
『DENIM』に入ってるんで、何度も何度も聴いてるんですが、
歌詞に「夕凪」って出てくるんですよね。
今まで意識しないで聴いてたなあ…
みんなどんな思いで夕凪の海を眺めてたのかな…
さて、俺の夏休みの宿題は、もう一単元だな…
| 固定リンク | コメント (6) | トラックバック (0)
最近のコメント